大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島家庭裁判所 平成9年(家)1418号 審判 1998年1月05日

申立人 ○○市児童相談所長 A

事件本人 B

保護者親権者父 C

保護者親権者母 D

主文

申立人が事件本人を重症心身障害児施設に入所させることを承認する。

理由

1  本件申立ての趣旨及び実情

事件本人は、平成9年10月25日、a病院に呼吸停止状態で運ばれ、低酸素性脳症、頭蓋内出血により入院中である。その原因としては、事件本人に対する虐待の疑いが強く、保護者である両親に監護させることは、著しく事件本人の福祉を害することになる。したがって、事件本人を児童福祉施設に入所させることが必要であるところ、事件本人の母がこれを承諾しない。

よって、児童福祉法28条により、申立人が事件本人を児童福祉施設に入所させることにつき、その承認を求める。

2  当裁判所の判断

(一)  本件事件記録によれば、次の各事案が認められる。

(1)  事件本人は、平成○年○月○日、a病院において、父C(昭和○年○月○日生)と母D(昭和○年○月○日生)の第2子長男として出生した。妊娠35週の分娩であり、体重2396グラムの未熟児であったため、事件本人は、出生後も約1か月間入院を続け、一旦退院したものの、平成9年9月28日、発熱により再び同病院に入院し、髄膜炎との診断により治療を続け、同年10月16日退院した。

自宅は、父Cが勤める会社の社宅であり、2DKのアパートである。自宅での同居者は、事件本人、事件本人の両親及び事件本人の姉である長女E(平成○年○月○日生)の4人である。

(2)  事件本人は、平成9年10月25日、救急車で搬送されてa病院に3度目の入院をした。自発呼吸が停止する危険な状態であった。入院後に施行された頭部CT検査の結果、広範囲に低吸収域が認められ、軽度頭蓋内出血も認められたが、これは絞首によるものに酷似していた。また、入院時、事件本人の頸部に首を絞められたような出血斑(青痣)がみられ、肩と二の腕にも出血斑(青痣)があった。

事件本人の同年12月1日における状態は、自発呼吸が可能となったものの、目の反応がなく、足が動かず、また、経口授乳ができないので管で授乳している。同月齢の乳児に比べて発達が非常に遅れている。したがって、事件本人は、今後、専門的なリハビリテーションを続けながら、発達を促すための看護を受ける必要がある。

(3)  ○○市児童相談所の職員は、事件本人の入院先であるa病院から連絡を受けて、担当医師らから事情を聴取したうえ、事件本人の両親に対し、事件本人を児童福祉施設に入所させることを勧めたが、両親はこれに応じなかった。

本件につき調査命令を受けた家庭裁判所調査官は、事件本人の両親の陳述を聴き、施設入所等に関する意見を聴取したところ、両親は、リハビリテーション訓練等の面では施設の方が優れているとしても、親として手元で育てたい旨を述べた。

(二)  以上の事実によれば、事件本人は、現在、心身に重度の障害を有する状態にあって、適切なリハビリテーション訓練と発達を保すための看護が早期に行われることが肝要であり、その環境としては、専門家が配置され設備が整った施設において行われることが最も適切である。

ところで、事件本人は、平成9年10月25日、呼吸停止状態で緊急入院したのであるが、それは事件本人の頸部等に、首を絞めるなどのかなり大きな有形力が加えられたことを原因とするものと推認される。事件本人の母は、事件本人の異常を発見した際の事情として、日光浴のため自宅で事件本人を寝かせていたところ、長女Eが事件本人の下に敷いていたタオルを持ってきたので、様子を見に行くと、事件本人がうつ伏せになり息をしていなかった旨述べる。事件本人に対する前記有形力の行使につき、同居者以外の第三者が関与したことを窺わせる事情は存しない。すると、虐待ともいうべき上記事態は、事件本人が両親のもとで監護されていた日常生活の中で発生したものであり、事件本人を自宅に戻した場合には、再び同様の事態を生ずるおそれがある。

上記リハビリテーション訓練等の必要性及び再発防止の必要性に鑑みると、事件本人を自宅に戻して両親に監護させることは、現時点では、著しく事件本人の福祉を害するというべきであり、事件本人を児童福祉法27条1項3号所定の施設のうち重症心身障害児施設に入所させることが相当である。

(三)  よって、本件申立てを認容することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 古賀輝郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例